ぼく牧師 〜聖書研究・礼拝メッセージ、ときどき雑談〜

*聖書の引用は特別記載がない限り、日本聖書協会『聖書 新共同訳』 1987,1988 から引用しています。

教会がカルト化する運動と神学(1)

2019年3月7日

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*参照元の更新などに伴い、2022年7月2日に記事を大幅に改稿しました。

 

カルトの定義と要素

健全な宗教と破壊的カルトの違いは何か?……と聞かれたら「金銭的・身体的・精神的被害をもたらす反社会的な集団かどうか」という点が鍵になります。お互いに連携している弁護士、臨床心理士、社会学者、宗教者などのカルト問題の専門家は、思想信条のみを理由にして、破壊的カルトかどうか判断することはありません。

 

その集団で教えられていることが、どれだけ荒唐無稽であっても、個人の意志や人権が尊重されている限り、「異端」と呼ぶことはできても「破壊的カルト」と呼ぶことはできないからです。

 

しかし、「教えを広めるためなら他人に嘘をつくことも推奨される」「組織の批判者にはどんな仕打ちをしても許される」というような反社会的行動を促す教えや「薬や医療を頼ってはならない」「どんな病気も祈れば治る」など、信じて実行した場合、健康被害や死に至ってしまう教えもあります。
 

そのような教えは「信仰の自由」を盾に、実践させることが認められるものではなく、個人の人権を侵害し、公共の福祉を破壊する、破壊的カルトの要素として、警戒すべき対象となります。
 

残念ながら、キリスト教会の中にも、こういった反社会的行動を促し、信者の心身に被害をもたらす「運動」や「神学」と呼ばれるものが存在します。それらは単に、既存の教義・教理から逸脱しているだけでなく、採用した教会の破壊的傾向を著しくさせ、教会のカルト化を招きやすいという問題を有しています。
 

以下に紹介するキリスト教会の運動や神学は、国内外のカルト問題の専門家から、注意や警戒が呼びかけられているものです。既に影響を受けている団体からのスラップ訴訟を避けるため、具体的な運動名を挙げることは控えていますが、同様の傾向が見られたら、速やかに距離を取るか、カルト問題の相談窓口へ相談することをお勧めします。

 

【参考資料】

jecac.org

 

JSCPR(日本脱カルト協会)の集団健康度チェック

 

直接的な啓示を強調する運動

最近、教会のカルト問題の専門家から、特に警戒を促されているのが「現在も神から直接啓示を受ける『使徒』や『預言者』が存在する」……と主張されている運動です。

 

通常の教会では、聖書に書かれた内容を根拠に、現代の私たちへ語られる「神の言葉」を伝えますが、上記の運動では、聖書に書かれていないことも「神から直接啓示を受けた」と教えられ、指導者を絶対視させるようになります。
 

信者は、指導者の言葉を「神の言葉」と同一視するよう促され、聖書の記述と矛盾することを言われても、疑うことを許されず、都合よくコントロールされるようになります。
 

また、この運動では、指導者による超自然的な「癒し」や「奇跡」を強調する傾向が強いため、演劇的な手法や仕掛けが使われることもあります。たとえば、他人が罹っている病を言い当てたり、その人が経験したことを的確に言い当てるパフォーマンスです。
 

ここには、多くの詐欺師や占い師が用いているホット・リーディング(事前に調査して情報を得ていたことを隠し、その場で相手の心や過去を読んだように思わせる技術)やコールド・リーディング(相手とのコミュニケーションを通して、あたかも超常的能力を発揮しているかのように思わせる技術)の手法が使われていると思われます。
 

また、会衆の目の前で病気を癒したり、死人を生き返らせたりするパフォーマンスが行われることもあります。それらの奇跡が宣伝され、一気に信者を獲得して、教勢を伸ばす教会もあります。しかし、医学的に証明できる癒しは、どの集会でも確認されていません。
 

そんな中、本当に奇跡を起こしてもらえると信じ込み、病院で治療するべき疾患を指導者に癒してもらおうと献金をささげたり、亡くなった家族を復活させるため、指導者の指示に従って、遺体の埋葬を拒んでしまう人もいます。
 

さらに、この運動では、現代の「使徒」や「預言者」から按手(頭に手を置いて聖霊の力が与えられるよう求める祈り)を受けることによって、個々人に「癒し」や「奇跡」を行う力が授けられると教えられます。
 

そのため、自分も「使徒」や「預言者」になりたい人、特別な力を授かりたい人が、指導者の按手を受けるため、多額の献金や奉仕を行う様子も見られます。「使徒」や「預言者」という肩書きを使った、ある種の資格商法になっている……と言うこともできます。
 

中には、指導者から按手を受けて、「外国の知らない言葉を話せるようになった」と信じ込んだ宣教師が、渡航先で言葉に困り、結局、帰国しなければならなくなった……という事件も起きています。特に深刻なのは、信じた人の将来を左右する「偽預言」の被害です。指導者の預言を信じて、財産を処分した人や、悪質なデマの拡散に加担してしまった人が大勢います。
 

そして、この運動では、宗教、家庭、教育、政治、メディア、エンタメ、ビジネスといった、あらゆる分野へ信者が影響を及ぼし、最終的に支配することで、人間社会が変わるだけでなく、大勢の人が救われると教えられます。
 

しかし、実際には、これらの業界へ進出した指導者が、脱税、巨額背任、不倫、性的虐待など、不祥事を頻発させており、人々が救われるどころか、多数の裁判が起きています。にもかかわらず、急激な教会成長を果たした指導者が、日本の教会のセミナーに呼ばれて講師を務め、その教えを採用してしまう教会や牧師も出ています。
 

このような運動に影響を受けると、様々なグループに分かれている、他のキリスト教会を激しく批判するようになり、現代の「使徒」や「預言者」とされる指導者の下で、一致して伝道することを求めるようになります。言い方を変えると「地域教会の支配」が目指されます。そのため、かえって教会の分裂や断絶が進み、大きな問題となってきました。
 

そこで、このような運動に対する非難決議が行われたり、事実上の異端宣言が出された教団もあります。しかし、現在も、この運動に影響を受けている教会や指導者が、各教派・各教団の中へ、少しずつ広がっています。一見、教会を大きく成長させ、伝道を成功させる秘訣のように思える運動でも、安易に飛び付かないことが大切です。

 

【参考資料】

christianpress.jp

christianpress.jp

christianpress.jp

christianpress.jp

 

富や健康の獲得を謳う運動

心理療法カルトの一つとされる「自己啓発セミナー」や商業カルトの一つに挙げられる「マルチ商法」では、「思いは現実になる」「強く願えば実現する」という《積極思考》が唱えられ、教えられたとおりにやっても上手くいかないのは、指導者の問題ではなく、その人の思いや真剣さが足りないからだと言われます。
 

この教えは、もともと現世利益の追求を戒めるキリスト教への反発から生まれたもので、現在では、一部のキリスト教会へ再輸入され、「信仰によって語った言葉は現実化する」という教えになっています。たとえば、「病があるなら積極的に『健康だ』と言えば健康になる」「感染が心配なら積極的に『コロナに罹らない』と言えば感染しない」という内容です。
 

反対に、「病にかかることは罪である」「病が治らないことは不信仰の証である」というような主張も見られます。そして、癒しが起こらなかった場合、癒しを約束した指導者の問題ではなく、癒しを願った信者の信仰が足りなかったからだという問題に変換されてしまいます。
 

さらに深刻なのは、この教えを信じた人は、信じれば信じるほど、積極的になればなるほど、願いが現実化されると思うため、戸惑いや疑念を捨て去って、ひたすら指導者の言いなりになってしまうという点です。そのため、病が治ると信じているあかしに、医者からの薬を飲まなくなったり、病院へ行かなくなったりするのです。
 

また、「信仰によって語った言葉は現実化する」ため、病を癒したい人だけでなく、貧困から脱したい人も、大勢この運動へ参加します。「献金すればするほど、何倍にもなって返ってくる」と教えられるため、借金してまでささげる人も存在しますが、悪質な情報商材や投資詐欺の手口とほとんど同じです。
 

これらを教える指導者は、自らが「信仰によって富と健康を得ている様子」を示さなければ、信者がついて来ないため、莫大な財産を築いています。その裏で、教会財産の私有化や横領、詐欺や脱税などに関わることが増えていきます。
 

一方で、借金してまで献金をささげ続けた人や、指導者の言いなりになって、薬や医療を頼らなくなった人が、深刻な健康被害や金銭的被害を受けています。多くの人を惹きつける魅力的な伝道が行われているように見えたとしても、実態を慎重に見極めなければ、自分も被害に巻き込まれたり、他者を巻き込んでしまいます。

 

以上が、キリスト教会で問題となっている運動や神学の教えについてまとめたものです。日本では、教会関係者の間でも、まだ十分意識されてない問題なので、ぜひ、色んな方に知っていただけると嬉しいです。

 

【参考資料】

courrier.jp

christianpress.jp

christianpress.jp

 

なお、今回の記事で取り上げきれなかった運動や神学については、下記の記事で取り上げています。

bokushiblog.hatenablog.com