破壊的カルト 2020年2月1日
カルトかどうか迷ったら
「破壊的カルト」と言えば、怪しい宗教団体を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、実際には政治団体、ボランティア、商業サロン、心理セミナー、大学のサークル、ママさん同士の交流会にも「破壊的カルト」と呼べるグループが存在します。
「これって実はカルトじゃないの?」あるいは「カルト化してるんじゃないの?」……そう思われる団体があるものの、他の事例を知らないために確信を持てない経験が皆さんにもあるかもしれません。
そこで、今回は破壊的カルトの類型やカルトと親和性の高いビジネスモデル、またはカルト化していった言説などを紹介し、怪しい団体と出会った際に判断のヒントにしていただければと思います。
なお、ここで言う「破壊的カルト」とは、個人の人権を侵害し、公共の福祉や利益を破壊するような社会問題を引き起こす団体のことを指しています。その団体の教義・主張・言説がおかしいだけでは、破壊的カルトと言うことはできません。
しかし、主張されている内容を信じ込むことによって、適切な医療を受けられなくなったり、健康を損ねたり、金銭的な被害を受けたり、人間関係を壊されたりする場合には、破壊的傾向が強いと言えます。
もし、そういった問題が見られる団体・ネットワークにおいて、
1)金銭的・精神的・肉体的被害が訴えられている。
2)それらの「被害者の会」ができている。
3)法的な不祥事や訴訟が起きている。
といった点を確認できたら、ほぼ「破壊的カルト」と言って差し支えないでしょう。以下に、そういった具体的事例が報告されている破壊的カルトの類型を挙げていきたいと思います。
なお、参考資料として紹介している記事は、あくまでこれらを調べる際、参考にできるもので、サイトに書かれた全ての主張を支持するものではありません。
思想・政治カルト
思想・政治カルトは、批判者や反体制側の人間を過度に否定したり、攻撃したり、妨害したりする抑圧的な支配体制を持っており、左派、右派、保守、リベラルを問わず存在します。
特徴としては独裁主義の傾向が強く、報道機関の支配、自由な集会や選挙の阻止、権力の濫用を防止する抑止機能や均衡を欠いてることが挙げられます*1。
分かりやすい例としては、旧ソビエト連邦やテロ集団*2、国内ではあさま山荘事件を中心とした連合赤軍による集団リンチ事件など*3があります。ナチスをはじめとする特定の人種・民族を排除する団体もここに入ってくるでしょう。
目的のためなら法や憲法、定められた手続きを軽視する傾向が強く、一方で、指導者や組織の言うことをきかないメンバーは、容赦ない排除や攻撃にさらされます。
また、思想・政治カルトは徹底した情報コントロールが特徴で、都合の良いフェイクニュースを拡散し、反対に都合の悪い情報を「フェイクニュース」として切り捨てるようメンバーをコントロールしていきます。
この構造は左派、右派、保守、リベラル関係なく、自分たちの主張に説得力を持たせ、反対者を攻撃できるものならば、疑似科学や陰謀論も自然に拡散されていきます。「反ワクチン」「温暖化否定説」「ホロコースト否定説」「在日特権」なども度々結びついています(政治団体とは関係ないところでこれらの言説がカルト化しているものもあります)。
自分は「正しい情報」を知っているから「何も知らない人」あるいは「間違った情報を信じている人」に真実を教えなければならない……という善意、親切心からこれらのニュースは拡散されます。
さらに、「自分たちの立場は間違ってない」という保証を発見し、「反対者に騙されない論理」を身につけるために、メンバーは関連した情報をさらに集めようとしていきます。
そのため、こういった情報を発信する人の本やメルマガが購入されやすくなり、後述する「信者ビジネス」とも親和性が高くなっています。しかし、間違った情報を拡散することによって、理不尽な差別や暴力を受けたり、日常を破壊される人たちがいることを忘れてはなりません。
そして、思想・政治カルトは非常に多くのフロント組織を持っています*4。社会福祉機関や教育セミナー、ボランティアやディベートサークルが入り口になって、カルトのメンバーになった人もいます。
たいていの場合、グループの真の目的はその人がすっかり馴染むまで知らされず、気づいたときには離れがたい関係ができており、極端な主張や言説にも疑問を持ちにくくなっています。
また、政治団体そのものが、破壊的カルトのフロント組織になっていることも多々あります。その場合も、組織のはっきりした目的や他団体との関係を表立って示さないことが多いです。
もし、自分の属しているグループが、その正体や目的をずっと後になってから明かした場合、たとえどれだけ周りがいい人たちでも、自分の自己決定権を侵害するような組織であることに目を留めましょう。
【参考資料】
商業カルト
商業カルトは、人々が持つ富と権力への幻想をかきたて、メンバーをほとんど奴隷的な献身状態に誘い込む特徴があります*5。
ステータスの獲得や効率よく儲けることを信条とし、詐欺商法、仲間からの圧力、経済的な支配などの手口を使い、時には援助交際や友人関係も利用して人集めを行います*6。
その多くは、ピラミッド型の「マルチ・レベル・マーケティング(MLM)」の組織で*7、日本では「ネズミ講」や「マルチ商法/ネットワークビジネス」として知られています。ここでは、ネット上で騒がれている「情報商材」や「信者ビジネス」とも合わせて紹介したいと思います。
マルチ商法/ネットワークビジネス
マルチ商法は、「会員になって、新たな購入者を獲得したら多額のボーナスが得られる」などと、個人を商品の販売員として勧誘し、さらに次の販売員を勧誘すれば収入があがるとして販売活動をさせ、連鎖的に販売組織を拡大していく商法です*8。
たとえば、「最初に自分が1セットを◯万円で買う。それから友達を誘って、△人に入会させればバックマージンが入って元が取れる。⬜︎人に入会してもらえば、すぐに月収数十万円になるから」というように説明され、入会の際には商品・サービスを購入する金銭的な負担が必要なこと、とにかく人を紹介するよう勧められることが特徴です*9。
問題は、この商法の行き着く先が「破綻」しかないことです。例えば、一人の会員が月に二人の勧誘に成功したとして、その二人がそれぞれ二人ずつ勧誘すると、2年3ヶ月後には日本の人口を超えてしまいます。マルチというのは、はじめて間もなく行き詰まる商法であり、収益のほとんどはトップの数名に独占されてしまいます*10。
また、必ずしも、金に執着する人が巻き込まれるわけではなく、むしろ「自立したい」「一人前になりたい」「誰かに貢献できるようになりたい」という人が巻き込まれていきます。自分たちが広めている商品やサービスは素晴らしく、もっとたくさんの人に使われるべきだとすっかり信じ込まされます。
しかし、その商品の多くは、謳われているほどの効果はなく、ほとんどが薬機法や景表法に違反しています。また、商品を勧めるために疑似科学やトンデモ医療に片足を突っ込んで被害者を出し、刑事事件や訴訟に発展していくこともあります。
にもかかわらず、「健康法」や「◯◯セラピー」の講師として、公民館や市役所、学校で開催するセミナーに、マルチ商法と関わる人間が招かれるケースが後を絶ちません。医者や看護師、幼稚園の先生など、命をあずかる立場の人間がこれらの発信元になっていることも少なくないのです。
しかし、当事者は周りが『やめなよ』と言ってくるたびに、仲間たちから『つらかったね、大変だったね』と優しく受けとめられ、ますますマルチとの関係を強くしていきます*11。
また、これらの仲間は普段から、お茶や遊び、勉強会や研究会に誘い合って、絆を深くしています。単に金儲けがしたいからそこへ行くのではなく、勧誘によって周りとの関係が崩壊し、他に居場所がなくなっていることも、マルチから抜け出せない理由です。
【参考資料】
情報商材
情報商材は、「簡単に稼げる方法」や「確実に成功するやり方」など、情報そのものを商品として扱っているものです。主にインターネットで売買され、ブログ、Facebook、TwitterなどのSNSや、YouTubeやニコニコ動画が入り口となって、金額に見合わない内容やリスクを隠された情報を購入させるケースが増えています。
例えば、「投資で確実に儲かるシステムを50万円で買い、さらに他の人へこのシステムを紹介して売ったら、バックマージンとして一人5万円がもらえる」などと説明し、実際には儲けが出なくても「あなたの勉強不足が原因」と言って、返金・解約に応じてもらえない例などがあります*12。
また、「ブログで収益をあげる方法」「YouTubeで儲かる方法」など、数千円〜数万円で購入させ、実際にはネットで検索すれば無料で見られるものばかり……といったケースも目立ちます。
これら悪質な情報商材の特徴は、「◯◯で儲かる方法を購入させ、さらにそれを別の人へ購入させる」というマルチ商法と共通した構図が見えることです。
また、note、メルマガ、Facebookページ、LINEグループを利用したオンラインサロンに入会させ、毎月会費を払わせながら、ほとんど更新がなかったり、会員のサポートを十分に行わないところもあります。
しかし、これらの情報を売る人は「頑張っている人が報われるように!」「みんなが成功できるように!」と優しい言葉でメンバーの仲間意識をコントロールするため、批判や指摘をした人が「アンチ」として叩かれ、攻撃や排除にさらされる傾向があります。
他にも、「美容」「健康法」「ダイエット」「短期間で成績を上げる勉強法」「記憶力を向上させるやり方」など、様々な情報が売られていますが、これらの中にも薬機法や景表法に違反するものが多々見られます。
それらを科学的根拠があるように謳いながら、実際には疑似科学やオカルトと変わらない内容のため、間違った方法を実践して悲惨な目に遭っている人たちもいます。
最近では、社会人、主婦、学生だけでなく、中高生をターゲットにした情報商材も増えているため、警戒が必要です。
情報商材は性質上、その金額に見合った内容か、信頼できる中身かどうか、事前に知ることができません。しかし、「絶対」「確実」「完全」といった言葉で購入を勧めてくる場合には、十中八九、おすすめできないものでしょう。
むしろ、「内容をある程度確認してから購入できる」本屋さんの存在は、現代の私たちにとって、思った以上に貴重なものかもしれません。
【参考資料】
信者ビジネス
信者ビジネスは、カリスマ的な指導者、教師、インフルエンサーが人気を集め、「信者」となった人たちからお金を吸い上げるシステムです。
個人で気軽に登録できるクラウドファンディングのサイトなどを利用して、「自分に貢げば成功者の仲間入りができる」「自分と一緒に社会に影響力を持つ人間になれる」というように感じさせ、折に触れてはお金を出させます。
また、本来は数百円、数千円のものを何千円、何万円で購入させ、「この価値が分からなければ、いつまで経っても成功者になれない」「ここでポンっとお金を出せなければ、あなたは凡人から抜け出せない」と思わせて、そこまで付加価値のないものを高額な値段で買わせます。
このとき、「高い報酬を払った」のに「たいして役に立たないものを得てしまった」という構図が、憤りにつながりかねない「認知的不協和」を引き起こし、それを解消しようとする心理が働きます。
そのため、信者たちは「これを購入したことで、今までなかったセンスを身につけられた」と自分を納得させてしまうのです。また、信者ビジネスの主導者は、「ここで思い切って購入できない自分の方こそ嫌らしい……」という罪悪感を持たせるテクニックにも長けています。
さらに、オンラインサロンを利用した信者ビジネスも活発に行われており、「入会者だけに教える成功の秘訣」「会員だけが見られる◯◯のありがたいお言葉」などが月額で提供されますが、金額に見合ったサービスとは言えないことが多いです。
しかし、サロンの中で批判的なことを言うと、それからは無視されるようになったり、サポートを受けられなくなったり、他の会員たちから攻撃されるようになることも多々あります。
入会直後は優しくされ、色々なところで持ち上げてもらえますが、思うような成果が出ないと、教材の内容の薄さではなく、本人の努力が足りないせいだと言われるのです。
信者ビジネスは、あらゆる破壊的カルトと親和性が高く、初めはまともなクリエイターや発信者だった人々が、徐々にカルト化していく例もあります。
支援する側、支援を受ける側が互いに誠実な関係を保てるように、これらの問題にはよく注意しておくべきでしょう。
【参照資料】
心理療法カルト
心理療法カルトは、自己啓発セミナーを典型とするもので、自己変革や向上を目指して努力することを動機とし、中には心理療法まがいのものもあります*13。
大きく分けると、「一人のセラピストと複数の相談者で構成されるもの」と「複数のセラピストがワークショップやグループセラピーを行うもの」があり、中には不動産を購入して共同生活を行う集団もあります*14。
講師は、「心理カウンセラー」「メンタルカウンセラー」「◯◯セラピスト」「◯◯コンサルタント」「◯◯認定講師」などの肩書きで、いかにも専門的な知識を持っているように見せますが、民間団体で短期間のトレーニングを積んだだけの者が多く、実際には心理学やカウンセリングの学位を持たず、十分な知識と訓練を積んでいません。
本当の心理療法や心理カウンセリングとの見分け方は、「治る」「解決する」云々と誇大広告的になっていないこと(景表法に違反していないこと)、カウンセリングのシステム等について料金も含めきちんと明示されていること(ただし高額でないこと)、カウンセラー自身が公的な学会等にも所属し、研修も続けていると思われること(よく知られてない名前だけの学会でないこと)といった点を確認することが重要です*15。
自己啓発セミナー
自己啓発セミナーは、「自分を変える」「成長する」「コミュニケーション能力を養う」などと謳って高額なセミナーに通わせ、極端な自己責任を強調し、組織に忠実な人間を育てる心理療法カルトの一つです。
参加費は数万円〜数百万円で、ホテルの会議室などを会場としていることが多いです。ワークショップやセミナーでは、参加者を「絶頂感」に導くため、多くの初歩的なマインド・コントロールの技術が駆使されます*16。
簡単に言えば、自分で考える隙を与えず、周りの空気や雰囲気に同調させ、自己の秘密を開示させてメンバーとの一体感を生み出し、トレーナーの言うことを全て信頼し服従するよう導くのです。
心理的に操作された参加者は、次の段階へ行くことを促され、より高額の「上級者」コースに申し込まされ、そこからセミナー団体に深く巻き込まれる人が出てきます*17。
そして、今度は友人や親戚、仕事仲間を勧誘するように言われ、勧誘活動に批判的なメンバーは切り捨てられます。このような自己啓発セミナーに関与した結果、自死や無謀な事故死だけでなく、無数の精神衰弱、離婚や別離、仕事上の失敗や倒産などの事例が発生しています*18
セミナーの中で使われている集団心理療法のテクニックは、現代では様々な問題が指摘されており、「引き寄せ」「成功法則」「積極思考」など、教えられている内容も科学的根拠はありません。
むしろ、社会的問題を生み出した宗教カルト、商業カルトが好んで勧める思考法、世界観でもあるのです。セミナーの内容やタイムテーブルを隠して誘われてきた場合、丁重に断ることをお勧めします。
【参考資料】
認定講師セミナー
認定講師セミナーは、「悩んでいる人の相談に乗れる」「専門的なアドバイスができる」「相談者のトレーニングができる」ようになれると謳う資格商法、資格ビジネスの一つです。
簡単に言えば、カウンセリングに来たお客さんに対し、「あなたもカウンセラーになれるのよ」と誘ってくるやり方で、数日〜数週間のセミナーに通わせ、「◯◯が認定したカウンセラー」として売り出されます。
しかし、医者が数日でなれないように、本来は心のケアができる人間も短期間に育成できるものではありません。多くは、基礎的な知識を持たず、誤った方法を身につけて、不適切なケアをする講師を量産してしまいます。
にもかかわらず、臨床の現場で役に立たない資格、履歴書に書くと不審に思われるような資格を、さも特別な技能を得た証であるかのように宣伝し、高額なセミナーに通わせる被害が相次いでいます。
そして、新たな「講師」「マスター」「カウンセラー」「コーチ」「セラピスト」「コンサルタント」を生産し、次の受講者をターゲットにしていくのです。
これは、心理カウンセラーに限らず、性教育の講師や子育てマスター、食事療法の講師など、様々な分野に見られます。
最近では、公民館や学校など、公の場でこれらの講師がセミナーを開いたり、「心の悩み相談会」「食育カフェ」「発達障害カフェ」などを開催し、「自分も講師のようになりたい」と思う人間を次々と生み出しています。
さらに、既存宗教団体でも、キリスト教などの聖職者に向けて「預言者」や「使徒」の認証を受けられるセミナーを開催している団体もあります。
こういった「技術」や「知識」を売るセミナーに関しては、自分が次の「加害者」として養成される可能性があることを、よくよく心に留めておきましょう。
【参考資料】
コーチング/悪質セラピー
心理療法カルトは、もともとグループ・セラピーの一種として生まれてきたものですが、講師と相談者が一対一で行う「コーチング」というタイプも存在します。
先に挙げた自己啓発セミナーや認定講師セミナー出身の人たちも多く、「引き寄せ」や「成功法則」など、スピリチュアルの思想が混ざった教えに基づいて、不適切なトレーニングを行っている人が多いです。
対象は様々で、ビジネス、子育て、就活に悩む人たちのほか、発達障害や心の病に苦しむ人たちにも、科学的根拠に基づかない知識で、トレーニングや療法、療育が行われます。そのやり方を正しいと信じきっているのです。
たとえば、「すべての精神的な問題は幼少時の体験に原因がある」として、クライアントに幼児期の性的虐待の記憶があると思い込ませたり、「自分に正直になり感情を解放すれば解決する」として、おおっぴらに性生活を公表させたり、散財を招いたりしています。
もちろん、このようなやり方は間違いであり、倫理的にも問題です。しかし、コーチングやセラピスト、コンサルタントを自称する人の多くは、世界中で検証されてきた知識・やり方を学んでません。定期的な研修やスーパービジョンもないために、間違った内容を修正することがないのです。
また、教えや相談をメインに据えず、「お茶会」や「セッション」と称して、自分と話す時間にお金を出させるケースもあります。界隈の人がみんなやっているから、違和感なく同じことをしている人もいるでしょうが、少し立ち止まって考えてほしいのです。
一般に、臨床心理士など、きちんと学位や訓練を積んだ者が行うカウンセリングは、1時間5000円〜12000円くらいが相場です。これは、数年間講義や研修を受けてきた間にかかった費用と、継続して研修を受けるためにかかる費用、また一日に受けられる相談数の限度から考えられる妥当な金額です。
しかし、数日間・数週間のセミナーを受けただけの人間が、同等の料金で相談を受けたり、これより高額な料金を請求する場合もあります。その料金を支払うことによって、相談者は適切な治療やトレーニングを受けられているでしょうか? もし、間違ったやり方によって、無駄な時間やお金を出させていたら、加害者になってしまいます。
もしも今、数十万〜数百万のセミナーを受講し、専門的な知識を身につけ、誰かを教えられる、指導できる者としてコーチやセラピスト、カウンセラーをしている方は、今一度、自分が民間団体の資格商法に騙されていないか、新たな被害者を生み出していないか、確認していただけると幸いです。
【参考資料】
宗教カルト
宗教カルトに共通するのは、教義や霊的な実践活動を組織の中心に据えていることです。「宗教」を自称していなくても、霊的グループ、真理を追求するグループとして、何らかの教義や信条を持ち、社会問題を起こしている団体もあります。
聖書や経典に基礎を置くユダヤ教系、キリスト教系、イスラーム系のグループでは、リーダーは自らを「救世主」「預言者」「使徒」などと自称して信者に服従を強いてきます。なかには、「理事会」あるいはそれに類した名前で呼ばれるエリート集団が聖書、経典の真の意味を知っていると主張する団体もあります*19。
ヒンズー教系、仏教系、シーク教系、ジャイナ教系、スーフィー教系などの東洋宗教をベースにしているグループでは、 「悟りの境地に達したアバター(神の化身)」「グル」「リンポチェ(チベット仏教の師の尊称)」「完全なる成就者」「過去の解脱した成就者の生まれ代わり」を自称しているリーダーがいます*20。
多神教系カルトの中には、呪術や魔術のマスターであると公言するリーダーもいます。また、様々な宗教的教義を寄せ集めたような教えを説くカルトや、リーダーが異次元の強力な存在(高次元など)と交信できると称するカルトも存在します*21。
カルトのリーダーの大半は「精神」世界の担い手を自称していますが、実際の贅沢な生活態度、何百万円もする不動産、手広い事業活動、物質世界への力の入れよう、性的な搾取などをよく見れば、その本性が見えてきます*22。
霊感商法・開運商法・霊視商法
宗教カルトで最も有名なのは、霊感商法による被害です。霊感商法とは、人の不安や信仰心に付け込み、先祖の祟りやこのままでは不幸になるなどと言って恐怖心を煽り、高額な商品を売りつける商法で、開運商法とも呼ばれます*23。
たとえば、「手相の勉強をしています」とか「生活意識調査/社会貢献に関するアンケートをしています」などと言って近づき、セミナーやビデオ上映会、合宿など誘ってきます*24。
その後、家系図を調べさせたりして、「あなたの先祖は地獄にいる」「あなたが行動すれば家族や先祖を救うことができる」「今が転換期だから」と言葉巧みに誘導し、高価な印鑑セットや大理石の壺、多宝塔、数珠(念珠)、水晶、高麗人参茶(エキス)、絵画など様々な商品を売りつけます*25。
販売価格は高価なものが多く、クレジット契約をさせたり、学生ローンを組ませたり、パートナーの退職金や子どものための貯蓄まで使わせます。
また、「いま祈祷しないと災いが降りかかる」などと、不安や悩みに付け込んで、「祈祷料」「除霊料」「供養料」などの名目で高額の献金を払わせ、商品の販売はしないものを「霊視商法」と言います*26。
もし、これらの被害に遭われたら、各都道県の「消費生活センター」か、下記のリンクにある窓口までご相談ください。
【相談窓口】
二世問題
宗教カルトの中には、一見、霊感商法など特に悪いことをしていないように見えるものの、信者の子どもたちが深刻な人権侵害に遭っているグループも存在します。
たとえば、親が子どもを鞭で打つのを容認するなど、虐待や体罰を正当化し、教育のために奨励しているところなどです*27。
組織以外の子どもと仲良くするのを禁じたり、友達からもらったプレゼントを捨てさせるところもあります。また、「奉仕」と称して子どもを強制的に組織の活動に参加させ*28、本人が望まない労働や勧誘活動に連れ出されることもあります。
さらに、教義の中で競争が禁止されているゆえに、運動会などの学校行事に参加することを拒否させたり、争いや婚前交渉を禁止しているため、アクション映画や恋愛漫画を見ることが許されなかったりします*29。
組織に批判的な文書はもちろん読ませず、ネットやSNSも禁止され、徹底した情報コントロールで、子どもたちが疑問を持っても、自分の方が間違っていると思い込ませていくのです。
中には、小学生やそれ以下の年齢であっても、親から引き離して所定の施設に住まわせたり*30、子どもに一般社会の基本的な規則・慣習・常識を身につけさせないところもあります*31。
子どもが大きくなってからも、高校進学や大学進学を妨げ、教団立の学校へ強制的に入学させたり、組織の勧める就職先で働かせるケースも出ています。しかし、親や周りの大人に頼らなければ生きていけない子どもたちは、自分から脱会することもできません。
成人して、これらの団体から抜け出した人たちも、小さい頃に身につけさせてもらえなかった人との距離感、社会の常識についていけず、孤立してしまうことも多いです。長年刻み込まれた組織の教えで、未来に対して希望が抱けず、どう生きていけばいいか分からない人たちもいます。
現在では、こうした破壊的カルトの二世たちに、逃げる場所、住む場所、食べる場所を用意して、心理的なケアや生活のサポートをしているところもあります。元二世同士のオフ会を開催している脱会者もいます。
たとえ、表立って争いや事件が起きていなくても、子どもたちに対する人権侵害、性的虐待などを行い、それを隠している団体は、健全な組織とは言えません。二世問題をきちんと理解しないまま、宗教的マイノリティとしていくつかの団体を擁護している人たちもいますが、ぜひ、これらの問題に目を留めていただけると嬉しいです。
【参考資料】
乗っ取り型カルト
宗教カルトの中でも、「既存宗教団体の乗っ取り」という手法を先鋭化させて、教勢を拡大してきたグループがいます。
彼らは、徹底的に教育・訓練された信者を既成教会に送り込みます。送り込まれた信者は、その教会で善良な信徒を装い、自ら進んで奉仕を引き受け、周りの信頼を徐々に獲得していきます。
数年かけて、その法人の役員として選出されると、今度は自分を信頼している信徒たちへ、牧師に対する不満や不審を抱かせて、偽の情報を流し始めます。
やがて、その牧師を追い出すことに成功すると、役員たちの賛同を得て、自分を送り込んだ組織のリーダーを招聘し、その教会を乗っ取ってしまうのです。
最近では、多くの教会で信徒の減少、高齢化が進んでいるため、責任役員の担い手もなかなか見つからない状況です。そのため、乗っ取る側からすると、数年信頼関係を築くだけで、簡単に役員まで上り詰めてしまえるのです。
もし、自分の所属する教会で、役員の被選挙権となる条件が極端にゆるい(受洗後◯年、転入後◯年の条件がゆるい)場合は、一度、教会の法人規則を見直した方がいいでしょう。
日本では、新たに宗教法人を設立するのがなかなか難しい状況なので、キリスト教会に限らず、法人を持っている団体は、自分たちも狙われた場合に備えて対処しておくことが大切です。
【参考資料】
引き抜き型カルト
乗っ取り型カルトとはちょっと違って、既存教会から信者を「引き抜く」タイプの宗教カルトも存在します。
彼らは、ターゲットの教会に潜入すると、周りの信者をよく理解し、忠実に礼拝を守り、一生懸命献金をささげて、熱心な奉仕者として過ごします。そして、何年もの時間をかけて、牧師と教会員から信頼を獲得します*32。
やがて、教会内で確固たる足場が築けると、今度はそこから、徐々に集会やセミナーに信徒や牧師を招待し、交通費や参加費まで工面します*33。
牧師家族も精神的経済的に支えられているので、セミナーに参加したときには、すでに心を奪われており、教えがすんなり入っていくのです*34。
セミナーに通い始めた人たちは、これまでと人が変わったように同じ主張を繰り返し、とにかく教会を成長させること、伝道しに出て行くことを強調します。
教会の行事や礼拝をおろそかにしてまで、他の集会やセミナーを優先させるようになるため、たいていの教会は分裂し、破壊されてしまいます。やがて、信徒の多くが引き抜かれて出て行くか、追い出されてしまうのです。
また、最近では既存教会のクリスチャンを狙って、SNSで「私もクリスチャンです」と装って、自分のグループのホームページへ誘導し、徐々に自分の組織の教えを浸透させる人たちもいます。
いわゆる「正統派」と「異端」の争いだと見なされてしまう場合もありますが、たとえるなら「私はサッカー部員です」と言いながら、実際にはハンドボールチームに引き抜こうとして勧誘しているような構図で、個人の自己決定権を侵害するやり方だと言えます。
一部の教会のFacebookページがそれらの人たちに乗っ取られた事例もあり、今後、既存の宗教団体の信徒を狙う勧誘には、ますます注意する必要があるでしょう。
【参考資料】
侵食型カルト
乗っ取り型カルトでもなく、引き抜き型カルトでもなく、もともと健全だった教会が、外から入ってきた教えに侵食されて、破壊的傾向を強く有するようになった宗教カルトも存在します。
これは、別の記事でも紹介しましたが、「現在も神から直接啓示を受ける『使徒』や『預言者』が存在する」と主張されている運動や「信仰によって語った言葉は現実化する」という教え、「悪霊との戦いを」強調する運動、「トラウマを暴く癒し」といった、ニューエイジ、ニューソート系の思想を取り入れた団体で、牧師の独裁化、献金の強要、精神的虐待、性的虐待などが報告されています*35。
ちょうど、心理療法カルトの自己啓発セミナーや悪質セラピー、似非スピリチュアル界隈で用いられる「積極思考(ポジティブ・シンキング)」「引き寄せの法則」「成功法則/成功哲学」などと同じ構図を持っており、信者の考える力を失わせ、献身的な奴隷状態をもたらします。
これらは「思いは現実になる」「祈れば癒される」「ささげれば裕福になる」「従えば成功する」など、一見魅力的な教えを有しているため、爆発的な教会成長をもたらし、一気に信者が増えていくため、教勢に伸び悩む教会が無批判に取り入れて、しばしばカルト化してしまうのです。
また、これらの教えや運動を取り入れた教会は、教派を超えたエキュメニカルなイベントにも積極的に参加し、著名な神学者や伝道者と仲良くなって、自身の教会へと招き、世間に対する信用を得ようと熱心に働きかけてきます。
大きな教会の場合、自らの団体で発行した賛美歌や聖書翻訳、映像コンテンツなどを広めていき、それが世界中の諸団体で使われることによって、著作権使用料や世間に対する信用を得ていきます。
簡単に言えば、マルチ商法で広まっているアロマや洗剤などを「いいものだから」と使わせることで人々の目を欺き、病院や学校、幼稚園などで信者/支持者を獲得していくのと似ています。たとえ、実際に商品が良いものでも、それを分かって使い続けることは問題があるのです。
若者や信者がたくさん集まっている教会は、「新しい方法を取り入れた面白い団体」として好意的に取り上げられる傾向がありますが、そのやり方が本当に誠実かどうか注意が必要です。
これは、キリスト教会だけでなく、同じように「積極思考」「引き寄せ」「成功法則」などを取り入れて、これまで積み重ねられてきた教義・教理の捉え方を吟味せず、「宗教っぽくない」「みんなが受け入れやすい」「難しくない」話に終始して、信者を獲得しようとする全ての団体で、今一度問い直すべきことでしょう。
【参考資料】
さて、他にも疑似科学や陰謀論、似非スピリチュアル、ミニカルトについて取り上げたかったのですが、思った以上に長くなってしまったので、『これってカルトですか?(2)〜カルトの入り口になるもの』の方で取り上げさせてもらおうと思います。
なお、ここに挙げている破壊的カルトの類型は、必ず一つの団体に一つだけが当てはまるものではなく、むしろ複数にわたっていることが多いです。破壊的カルトは非常に身近で、決して別世界のものではないことを意識していただけると幸いです。
*1:S・ハッサン著、中村周而・山本ゆかり訳『マインド・コントロールからの救出 愛する人を取り戻すために』教文館、2007年、35頁14〜17行参照。
*2:S・ハッサン著、中村周而・山本ゆかり訳『マインド・コントロールからの救出 愛する人を取り戻すために』教文館、2007年、35頁17行〜36頁6行参照。
*3:日本脱カルト協会(JSCPR)編『カルトからの脱会と回復のための手引き <必ず光が見えてくる>本人・家族・相談者の対話を続けるために』遠見書房、2009年、70頁1〜9行参照。
*4:S・ハッサン著、中村周而・山本ゆかり訳『マインド・コントロールからの救出 愛する人を取り戻すために』教文館、2007年、36頁7行〜12行参照。
*5:S・ハッサン著、中村周而・山本ゆかり訳『マインド・コントロールからの救出 愛する人を取り戻すために』教文館、2007年、38頁13〜15行参照。
*6:日本脱カルト協会(JSCPR)編『カルトからの脱会と回復のための手引き <必ず光が見えてくる>本人・家族・相談者の対話を続けるために』遠見書房、2009年、70頁15〜71頁1行参照。
*7:S・ハッサン著、中村周而・山本ゆかり訳『マインド・コントロールからの救出 愛する人を取り戻すために』教文館、2007年、38頁14〜17行参照。
*8:
悪質商法の種類 | 千葉県警察 参照。
*9:日本脱カルト協会(JSCPR)編『カルトからの脱会と回復のための手引き <必ず光が見えてくる>本人・家族・相談者の対話を続けるために』遠見書房、2009年、71頁2〜6行参照。
*10:日本脱カルト協会(JSCPR)編『カルトからの脱会と回復のための手引き <必ず光が見えてくる>本人・家族・相談者の対話を続けるために』遠見書房、2009年、71頁18行〜72頁4行参照。
*11:「マルチ商法」に引っかかる人の意外な心理、被害者が後を絶たない理由 | News&Analysis | ダイヤモンド・オンライン 参照。
*12:"USB1本"を49万円で買った大学生の後悔 参照。
*13:日本脱カルト協会(JSCPR)編『カルトからの脱会と回復のための手引き <必ず光が見えてくる>本人・家族・相談者の対話を続けるために』遠見書房、2009年、72頁16〜18行参照。
*14:S・ハッサン著、中村周而・山本ゆかり訳『マインド・コントロールからの救出 愛する人を取り戻すために』教文館、2007年、36頁18行〜37頁1行参照。
*15:日本脱カルト協会(JSCPR)編『カルトからの脱会と回復のための手引き <必ず光が見えてくる>本人・家族・相談者の対話を続けるために』遠見書房、2009年、96頁12〜17行参照。
*16:S・ハッサン著、中村周而・山本ゆかり訳『マインド・コントロールからの救出 愛する人を取り戻すために』教文館、2007年、37頁14〜18行参照。
*17:S・ハッサン著、中村周而・山本ゆかり訳『マインド・コントロールからの救出 愛する人を取り戻すために』教文館、2007年、38頁2〜4行参照。
*18:S・ハッサン著、中村周而・山本ゆかり訳『マインド・コントロールからの救出 愛する人を取り戻すために』教文館、2007年、38頁4〜7行参照。
*19:S・ハッサン著、中村周而・山本ゆかり訳『マインド・コントロールからの救出 愛する人を取り戻すために』教文館、2007年、34頁9〜12行参照。
*20:S・ハッサン著、中村周而・山本ゆかり訳『マインド・コントロールからの救出 愛する人を取り戻すために』教文館、2007年、34頁12〜15行参照。
*21:S・ハッサン著、中村周而・山本ゆかり訳『マインド・コントロールからの救出 愛する人を取り戻すために』教文館、2007年、35頁1〜5行参照。
*22:S・ハッサン著、中村周而・山本ゆかり訳『マインド・コントロールからの救出 愛する人を取り戻すために』教文館、2007年、35頁12〜13行参照。
*23:日本脱カルト協会(JSCPR)編『カルトからの脱会と回復のための手引き <必ず光が見えてくる>本人・家族・相談者の対話を続けるために』遠見書房、2009年、75頁7〜10行参照。
*24:日本脱カルト協会(JSCPR)編『カルトからの脱会と回復のための手引き <必ず光が見えてくる>本人・家族・相談者の対話を続けるために』遠見書房、2009年、75頁10〜14行参照。
*25:日本脱カルト協会(JSCPR)編『カルトからの脱会と回復のための手引き <必ず光が見えてくる>本人・家族・相談者の対話を続けるために』遠見書房、2009年、75頁10〜14行参照。
*26:日本脱カルト協会(JSCPR)編『カルトからの脱会と回復のための手引き <必ず光が見えてくる>本人・家族・相談者の対話を続けるために』遠見書房、2009年、75頁12〜76頁2行参照。
*27:JSCPR 集団健康度測定目録 37参照。
*28:JSCPR 集団健康度測定目録 41参照。
*29:「エホバの証人」元信者女性が自分の体験を漫画にした理由(いしいさや) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)参照。
*30:JSCPR 集団健康度測定目録 42参照。
*31:JSCPR 集団健康度測定目録 61参照。
*32:特別寄稿 吉岡創牧師 タラッパン「体験者の証言から」 | 異端カルト110番参照。
*33:特別寄稿 吉岡創牧師 タラッパン「体験者の証言から」 | 異端カルト110番参照。
*34:特別寄稿 吉岡創牧師 タラッパン「体験者の証言から」 | 異端カルト110番参照。
*35:教会がカルト化する運動と神学(1) - ぼく牧師 〜聖書研究・礼拝メッセージ、ときどき雑談〜、教会がカルト化する運動と神学(2) - ぼく牧師 〜聖書研究・礼拝メッセージ、ときどき雑談〜に掲載。