ぼく牧師 〜聖書研究・礼拝メッセージ、ときどき雑談〜

*聖書の引用は特別記載がない限り、日本聖書協会『聖書 新共同訳』 1987,1988 から引用しています。

カルト信者の家族ができること

2021年8月6日

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Sabine van ErpによるPixabayからの画像

 

カルト信者の家族のスタンス

破壊的カルトの信者から脱会の意志を引き出すには、目の前で起こる出来事(金銭トラブル、育児放棄、休学・退社 etc.)に囚われず、適切なスタンスで接していくことが重要です。その捉え方は、アルコール依存症の「家族ができる治療的行動」と、幾つか重なるところがあります*1

 

今回は、カルト信者の被害者家族が、本人にどのようなアプローチを取れるのか、アルコール依存症の家族の向き合い方を参考に、6つのポイントからまとめ直してみました。

 

① 正しい知識を持つ

カルト信者の家族は、破壊的カルトの正しい知識を持つことで、目の前で起こる出来事(カルト問題)に冷静に対処するきっかけが掴めます。カルトの実態について書かれた本やマインド・コントロールに関する本、脱会者の証言を読んだり、被害者家族の会やカルト問題の相談会へ積極的に参加してください。

 

独学で、自分流に、家族や友人を脱会させようとする人もいますが、ほとんど失敗しています。それは、よく知らない病気にかかった人を、医者や病院を頼らずに治そうとするのと似ています。かえって状況を悪化させるので、まずは専門家を頼ってください。

 

また、カルトについて、ニュースや知り合いの体験談、自分の経験から、「知っている」「分かっている」気になっているのは危険です。それ以上勉強するのを止めてしまい、自分の中にある材料で解決しようとするからです。

 

カルト信者の救出は、取り戻したい家族が、自分たちの無知や無理解を意識することから始まります。「一般の人よりカルト問題をよく分かっている」と思う人ほど失敗するので、謙虚に学び続け、情報を更新してください。

 

② 無力を知る

カルト信者の高額な献金や長時間の奉仕は、家族や周囲の力でやめさせることはできません。マインド・コントロール下にある人を単なる説得によって変えることは不可能です。

 

カルト信者の家族は「自分たちが怒っても、叱っても、注意しても、本人を変えることはできない」と認識することが重要です。これが、正しい対応の出発点になります。

 

まずは、本人へ「言い聞かせて」解決することはできないと認めましょう。たとえば、高額な献金をしてしまった家族へ、通帳やカードを持たせたまま「もう献金するな」と言ったところで、献金は止まりません。

 

それは、アルコール依存症の人へ、居酒屋のキッチンを管理させるのと同じくらい愚かなことです。たとえ長い間、家計を任せていたとしても、マインド・コントロールを受けている人に、その後も頼り続けるのは、無責任な行動です。

 

できないと分かっていることをできるかのように認識し、できなかったことを後から責めるのはやめましょう。カルト信者は「自分が望むように」ではなく「組織の望むように」行動します。そのように人格が変えられていることを理解してください。

 

③ 問題行動と闘わない

本人が隠れて集会へ行っても、黙って献金していたことを知っても、それと闘わないようにしましょう。なぜなら、カルト信者はどんな方法を使っても(嘘をついても、借金しても、体を売っても)献金をささげることができるからです。それが、マインド・コントロール下にある人の症状なのです。

 

集会へ行くのを禁じたり、献金を禁じたりしても、直接の解決にはなりません。むしろ、本人がカルト生活の限界に気づくこと(=直面化)を遅らせ、「正しい行動をしているからこそ、責められるのだ」と、本人が受けているマインド・コントロールを強化してしまいます。

 

話し合うときは、冷静に、自尊心を傷つけないように、その行動が問題を抱えていること、不自然な状態であることを伝えていきましょう。その際は、以下のように気をつけてください。

 

「どんなに周りが困っているか」よりも「どんなに心配しているか」を伝えてください。
「どんなに現状が酷いか」よりも「どんなに以前の方が良かったか」を伝えてください。
「どんなに怒っているか」よりも「どんなに傷ついて悲しんでいるか」を伝えてください。

 

④ 後始末をしない

カルト信者の問題は、悪質なマインド・コントロールにより、人間関係が破壊され、金銭トラブルやハラスメントで、自らの生活に限界が来るものです。

 

しかし、周囲の人が後始末(本人の代わりに献金を出す、借金を返す、周りに隠す)をすることで、カルト問題の直面化が遅れていきます。危険な状態でない限り、破壊的カルトが原因で起こした行動は、本人に責任を取らせましょう。

 

たとえば、献金のために借金をしたのであれば、単純に家族が肩代わりすることは避け、弁護士と相談して、一緒に返済計画を立てさせる……などの方法を考えましょう。(「勝手にしなさい」ではなく「みんなで見守る」態度を続けます)

 

お金を無心してきたら、何に使われる献金か、何のために集められるのか、本人から説明させましょう。その説明で、理解できないことや疑問に感じたことがあれば、責めずに聞き返しましょう。(断るためにではなく、本人を理解するために聞いていることを意識してください)

 

集会へ行くために、職場や家族への言い訳をお願いされたら、自分で説明させましょう。集会へ行ったことで問題が起きた場合も、迷惑をかけた人たちへ自分で説明させましょう。組織のために嘘をついて困るのは、対処しなければならないのは、自分自身であると理解してもらうことが大切です。

 

⑤ 献金を責めない、言葉の脅しを使わない

カルト信者の家族が本人に求めるのは、「これ以上献金したら生活できない」「組織を優先し続けたら色んな関係が壊れていく」という認識です。しかし、周囲の叱責がカルト問題の直面化を送らせてしまう場合もあります。

 

「あなたが私の邪魔をするから、不幸の元が溜まっていく」「あなたが教えを理解しないから、家族を幸せにできない」と、自分の行動の問題が他者の問題にすり替わり、自尊心を守ろうと否認が深まってしまいます。

 

また、「今度勝手に献金したら離婚する」「家族と縁を切らせる」等の言葉の脅しも、軽はずみに使わないようにしてください。言葉の重みが失われます。実行することのみ口に出し、実行しないことを口に出すのは止めましょう。叱責や脅しでは、カルト信者の行動は止まりません。

 

むしろ、献金したことを責めないで、「その献金は誰を幸せにするの?」と聞いてみましょう。その献金を誰が受けとり、どのように消費され、どうやって人々を幸せにするのか考えさせましょう。

 

本人に答えられなければ、組織はどう説明しているのか聞きましょう。それに納得しているのか、考えさせましょう。このときも、責めるため、やめさせるためではなく、本人を理解するために質問することを意識してください。むやみに責める態度は、マインド・コントロールを強めます。

 

⑥ 仲間に支えてもらう

カルト問題は周りをどんどん巻き込んでいきます。カルト信者と接すると、家族も心のバランスが崩れていきます。弁護士、臨床心理士、僧侶、牧師のサポートだけでなく、同じ問題に直面した「被害者家族の会」などの支えを定期的に得ましょう。ご家族の出席が、カルト信者本人の気づきを早めます。

 

もし、自分たちがいくら勉強したところで、いくら相談したところで、本人を変えることにならないと思っているなら誤りです。救出支援のポイントは、「本人を変えようとする」ことにあるのではなく「家族が変わろうとする」ことにあるからです。

 

支援者につながって、相談会へ来るようになって、1年ほどで救出に成功する家族もいれば、何度も挫折しながら10年も20年も経って、諦めかけた頃に救出できた家族もいます。向き合い方を変えること、接し方を模索し続けることは、決して無駄ではないのです。

 

家族の変化によって、カルト信者にも少しずつ変化が訪れます。破壊的カルトの救出支援は、カルト信者の回復を目指すのではなく、家族全体の回復を目指すものです。どうか、そのことを忘れずに向き合い続けてください。

 

参考資料・相談窓口

破壊的カルト、マインド・コントロールの参考図書

 

 日本脱カルト協会(JSCPR)『カルトからの脱会と回復のための手引き《改訂版》』遠見書房、2009年

 

 スティーブン・ハッサン 著、浅見定雄 訳『マインド・コントロールの恐怖』恒友出版、1993年

 

 スティーブン・ハッサン 著、中村周而・山本ゆかり 訳『マインド・コントロールからの救出』教文館、2007年

 

 西田公昭『マインド・コントロールとは何か』紀伊国屋書店、1995年

 

カルト問題の相談窓口

 

e-kazoku.sakura.ne.jp

www.stopreikan.com

controversialgroupscommittee.info

参考にできるアルコール依存症の治療サイト

 

www.seimei.org

alcoholic-navi.jp

www.hiro-clinic.or.jp

 

*1:たとえば、糸満晴明病院のホームページに挙げられている、アルコール依存症の「家族ができる6つの捉え方(家族ができる治療的行動について | 糸満晴明病院)」は、カルト信者の脱会を願う家族の対応とも重なっています。