2021年11月1日
私が牧師をしている華陽教会では、新型コロナウイルスが流行し始めた2020年4月以降、感染リスクの高い方や、その身内のいる家庭のため、自宅待機中も配信を通して祈りを合わせられるように、YouTubeによる礼拝の動画配信を続けてきました。今後、感染症の拡大が収まってからも、様々な事情で直接教会へ集まりにくい人のため、配信を続けていく予定です。
しかし、配信を行う際、一番頭を悩ませてきたのが著作権の問題です。これから配信を始めようか迷っている教会、あるいは、一度止めた配信を再開しようとしている教会で、著作権に関する手続きが、よく分からなくて困っているところも多いと思います。
そこで今回は、華陽教会の日曜礼拝、教会学校こども礼拝、聖書研究祈祷会を配信する上で、どのように著作権を確認して、どのような作業をしているのか、2021年11月の時点で行っている内容を紹介したいと思います。
ただし、著作権の専門家ではない素人が調べて確認してきた内容であること、動画投稿サイトの規約や法律が変更される場合もあることをご理解いただき、必ず公式発表の確認や問い合わせを行うという前提のもと、あくまで参考程度に読んでいただければ幸いです。
(*2021年11月2日に日本基督教団出版局、2021年11月5日にキリスト教視聴覚センターAVACO、2021年11月8日に日本聖書協会からそれぞれ確認してもらい、記事を一部修正しています。)
聖書の著作権
まず、礼拝の動画配信をする上で、注意すべき著作権と言えば、賛美歌の著作権と考える人が多いと思います。しかし、あまり注意を払われてない「聖書朗読」の著作権も、実は気をつけなければなりません。
キリスト教の聖典である旧約聖書、新約聖書は、何世紀も前に書かれたものだから、既に著作権を失っている……と考えるかもしれませんが、日本語に翻訳された聖書を使う以上、その翻訳にも著作権があります。著作権保護期間が終了していない訳については、定められた手続きが必要です。
もしかしたら、礼拝の動画配信で朗読するのは、聖書の「引用」であって「転載」ではないから、著作権の侵害には当たらない、引用であればどれだけやっても大丈夫、と考える人もいるかもしれません。
確かに、法律に定められた「引用」であれば、著作権の侵害には当たりません。しかし、難しいのは「正当な範囲内の引用かどうか」の判断です。著作権法での「引用の範囲」に数量的な決まりはないものの、引用として認められるには、オリジナル部分と引用部分の間に圧倒的な差が必要で、全体の1割程度までに留めることが推奨されています*1。
私も、礼拝の中心である聖書朗読は、正当な範囲内の引用として認めてほしいと考えていますが、毎週礼拝の配信を続けていたら、一つのサイト(チャンネル)で、かなり多くの分量が引用されます。「それはもう引用ではなく転載に等しい」と捉えられても、仕方がないかもしれません。
また、残念ながら「引用」と称して、聖書を何十章もまるまるコピーペーストし、書籍やホームページに無断で載せてしまうケースも存在します。日本語訳の聖書を発行している各出版局は、教会諸団体に関係する、あらゆる方面へ様々な便宜を図りつつ、そういった問題を放置しないよう、ネット上で聖書を使用する際のルールを定めています。
今後、礼拝の配信における聖書朗読の扱いについては、もう少し議論されることを望みますが、まずは、各出版局が著作権者としてお願いしている内容をよく確認し、できる限り「適切な範囲内の引用」を心がけて、聖書朗読・聖書箇所の表示を行うことが、誠実な配信だと思います。
新共同訳聖書の場合
華陽教会では、礼拝の中で新共同訳聖書を使っているので、発行元の日本聖書協会による「ホームページ等への聖書の引用について」に基づき、チャンネル全体での引用が250節以内になるよう、礼拝や聖書研究祈祷会のライブ配信をした後、聖書箇所の表記を残して、本文の表示と朗読は後日カット編集しています。
教会学校こども礼拝については、配信を見られる人が、教会学校の生徒と保護者に限定されるようパスワードをつけています。
まとめると、
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……ということです。
同じく、日本聖書協会発行の聖書協会共同訳を使用しているところも、同様のやり方で大丈夫です。
動画を後からカット編集するのが大変な場合は、ライブ配信後、アーカイブを順次「非公開」にするか、削除していくと、カット編集しなくて済むので手間が省けます。
ちなみに、1955年に日本聖書協会から発行された口語訳聖書については、著作権の保護期間が終了しているため、使用許諾申請なしで配信に使用できます。
ただし、「聖書語句訂正一覧」にある、1975年、1984年、2002年に訂正された単語や文章は、今も著作権が保護されているので、これらの改訂を含む口語訳聖書の使用については、使用許諾申請が必要です。ご注意ください。
賛美歌の著作権
次に、問題となってくるのは、やはり賛美歌の著作権です。礼拝の配信で使う賛美歌は「使用許諾申請の手続きが必要なもの」と「不要なもの」に分かれています。注意しなければならないのは、配信のプラットフォーム(動画投稿サイト)やその楽曲の著作権管理団体によって、手続きが不要か必要か変わる場合があることです。
また、ライブ配信のみを行うか、後から見られるようにアーカイブ動画も残すようにするかで、必要な手続きや作業が変わります。必ず、プラットフォーム上の音楽利用に関するルールを確認し、楽曲の著作権者や出版元が、使用にあたってどのようなお願いをしているか調べるようにしましょう。
讃美歌21の場合
華陽教会では、主に、日本キリスト教団出版局発行の『讃美歌21』を使用しています。讃美歌21については、日本キリスト教団出版局ホームページの「賛美歌著作権」で、原詞、訳詞、原曲、編曲、すべてにおいて日本キリスト教団出版局に著作権が帰属しているか、または保護期間が終了しているもののリストを掲載しています。(下記)
このリストに掲載された楽曲については、今のところ、2024年3月31日まで、以下の条件で許諾申請不要で使用することができます。
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また、JASRACが利用許諾契約を締結しているプラットフォームであれば、JASRAC管理楽曲の賛美歌を手続きなしで配信に使うことができます。YouTubeもその一つです。JASRACの「動画投稿(共有)サービスでの音楽利用」によると、YouTubeで配信する場合は、
(1)賛美歌の音源(奏楽や歌唱)が会衆の手によるもので、
(2)作詞、作曲、訳詞、編曲の著作権がJASRAC管理か、保護期間の終了しているP.D.(パブリック・ドメイン)であれば、手続きなしでライブ配信(リアルタイムでの配信)をすることができます。
(3)加えて、楽曲が「内国作品」であれば、教会名義のアカウントでもアーカイブ動画に残しておくことができます。
ただし、楽曲が「外国作品」の場合は、手続きなしで個人以外の企業・団体がアーカイブ動画に残しておくことはできません。配信での使用を避けるか、ライブ配信後にカット編集するか、非公開にする必要があります。その代わり、配信するチャンネルが個人(牧師名義のチャンネルなど)であれば、(1)(2)を満たす外国作品もライブ配信後に残しておくことができます。
使用する賛美歌の作詞、作曲、訳詞、編曲の著作権がどこで管理されているかは、 J-WIDというサイトで「上記の内容に了承して進む」から検索画面に入って調べることができます。「作品タイトル」か「著作者名」に記入して「検索」を押すと、検索結果が出てくるので、該当する作品の「詳細」をクリックします。
すると、「管理状況(利用分野)」というところに「配信」というアイコンが出てくるので、そこをクリックして「管理状況詳細」で、作詞・作曲・訳詞・編曲の管理情報の「所属団体」を確認します。ここが「P.D.」か「JASRAC」になっていれば、YouTubeのライブ配信で使用することができ、楽曲のタイトル左下にある「内外」で「内国作品」と表示されていれば、アーカイブ動画にも残せます。
もう一度まとめると、J-WIDで検索して、作詞、作曲、訳詞、編曲の著作権管理情報の所属団体が全て
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のいずれかであれば、手続きなしでYouTubeの教会名義のチャンネルで、ライブ配信をすることができます。
また、作詞、作曲、訳詞、編曲の著作権管理情報の所属団体が全て
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のいずれかで、かつ
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であれば、手続きなしでYouTubeの教会名義のチャンネルで、ライブ配信もアーカイブ動画に残すこともできます。
日本基督教団讃美歌委員会など「日本基督教団」と表記のある団体が管理しているものについては、今のところ2024年3月31日開始分までの配信は、新型コロナウイルス感染症対策として手続き不要で使用でき、アーカイブにも残しておけます。
2024年4月以降のことはまだ決まっていませんが、感染症が落ち着いた状態となり、「通常」でれば、日本基督教団出版局が著作権を管理している作品も、配信のため申請が必要になってきます。申請に必要な書類はホームページの『賛美歌の使用申請について』からダウンロードし、メールで送ることができます。
一週間前に申請すれば十分間に合いますが、場合によっては他所への申請を案内されたり、再選曲が必要なこともあり得るので、10日くらい余裕をもって申請できると安心です。許諾業務は、
追記:2024年4月16日
2024年度から、日本キリスト教団出版局に著作権が帰属する賛美歌(詞・曲)をインターネット配信(映像、音声)で使用する際、
1. 使用者が、各個教会およびキリスト教主義教育機関(同窓会、保護者会を除く)であること。
2. 使用目的が、各個教会およびキリスト教主義教育機関の礼拝・集会(結婚式と有料行事を除く)であること。
3. インターネット配信で収益を得ていないこと。
4. ライブ配信、アーカイブ配信を問わず、年度末日(3月31日)までに配信開始するコンテンツでの使用であること。
に該当する場合には、使用料なしで、下記のリンクから年度分一括許諾申請を行うことができるようになりました。
なお、各個教会の礼拝配信以外に使用する場合(コンサートや近隣教会との合同礼拝など)は、使用料がかかるときもあります。作品を提供してくれた著作者の生活に影響してくるので、こちらも合わせて注意しましょう。
華陽教会では、アーカイブを残す許諾を得られた作品かP.D.かJASRAC管理の内国作品以外は、ライブ配信後2〜3日中にカット編集しています。カット編集の手間が惜しい場合は、ライブ配信後は非公開にするやり方でもいいと思います。
讃美歌(1954年版)の場合
華陽教会では『讃美歌21』の他に、同じく日本キリスト教団出版局発行の『讃美歌』(1954年版)も使用しています。こちらの場合はほとんどが保護期間の切れたP.D.ですが、一部、保護期間中の日本語歌詞・日本人作曲作品があります。ただし、配信についての条件は『讃美歌21』と同じです。
下記の『讃美歌』(1954年版)の日本キリスト教団出版局外の著作権管理リストに載っている番号以外の賛美歌であれば、著作権保護期間を終了しているため、手続きなしで配信に使用することができます。このリストは、先ほどと同じくホームページの「賛美歌著作権」から見ることができます。
また、リストに載っている「JASRAC管理賛美歌」であれば、YouTubeのライブ配信に使用することができ、かつ J-WIDで調べて「内国作品」であれば、教会名義のアカウントでアーカイブにも残せます。この点は『讃美歌21』と同じです。
華陽教会では、JASRAC管理賛美歌の内国作品か著作権保護期間の切れた賛美歌は、ライブ配信後もそのままアーカイブに残しています。
著作権侵害の申し立てについて
YouTubeで礼拝の配信をしていると、使用して問題ないはずの楽曲が「著作権侵害の申し立て」に引っかかることがあります。中には、本来著作権を有していない団体から不当に申し立てが行われていることもありますが、多くの場合、AIによる誤認です。
おそらく、CDやレコードなどに収録されたものを、無断で流していると機械が勘違いするためでしょう。面倒だから放っておきたくなるかもしれませんが、後々、チャンネルの運営に影響してくる可能性もあるので、「詳細」から「著作権侵害の異議申し立て」を行うか「セグメントをカット」するのがいいと思います。
多くの場合、「著作権侵害の異議申し立て」をしてから一ヶ月以内に、申し立てを取り下げてもらえます。何度やっても申し立てを取り下げてもらえない場合は、もう一度、著作権法上の取り扱いが間違ってないか確認しましょう。
華陽教会では、「著作権侵害の異議申し立て」を行って一ヶ月以内に申し立てを取り下げてもらえたものは、引き続きアーカイブに残し、取り下げてもらえないものは、放置が一番良くないので、一律セグメントをカットして編集しています。
絵本や紙芝居の著作権
華陽教会では、『聖書朗読と読み聞かせを中心とする教会学校カリキュラム』を作成し、教会学校こども礼拝で、絵本や紙芝居を用いています。これらを配信に載せる場合も、著作者・出版元の許諾を取っています。
現在、配信に載せる礼拝で使っているのは、日本聖書協会発行の『聖書絵本シリーズ』とキリスト教視聴覚センターAVACOの紙芝居です。どちらも、新型コロナ感染症の流行で、教会学校に行きたくても行けない子どもたちへの緊急措置として、絵本聖書/紙芝居の読み聞かせを教会学校に属する生徒に、送信先を把握できる範囲に限定してなら、配信することができます。
華陽教会では、教会学校に属する生徒と保護者の人たちが見られるよう限定公開にして、URLとパスワードで管理しています。
AVACOの紙芝居の場合
キリスト教視聴覚センターAVACOの紙芝居を使う際は、ホームページのお問い合わせから、下記のような項目を記載した使用許諾申請を送っています。
配信期間は1ヶ月以内となっているので、YouTubeのライブ配信で限定公開したあと、次週までに紙芝居部分をカット編集しています。実際に記入した例が下のようになります。
ただし、紙芝居のオンライン配信著作権申請受付は、コロナ禍に陥ってから緊急に対応されたことでもあるので、 今後、状況の変化によって対応も変わったり、内容の改定があるかもしれません。
また、許諾申請手続きは、出版元によって異なるので、それぞれ問い合わせた上で定められた手続きを行うようにしてください。
著作権フリーの聖書翻訳・賛美歌について
こういった著作権に関連する作業は、慣れればルーティーンなので、思っているほど大変ではありません。しかし、色々ややこしいから著作権フリーの賛美歌や聖書翻訳があったら、そちらを使いたいと考える人も多いでしょう。
華陽教会の礼拝でも、教会の集会・礼拝・礼拝配信に限った使用であれば、許諾を取ることなく無料で活用できるオンライン賛美歌(©️柳本和良/詞 柳本和良、曲 滝田真治)も利用しています。ただし、多くの場合は、出典の明記の仕方などが指定されているので、よく確認する必要があります。
また、著作権フリーの賛美歌や聖書翻訳の中には、背景団体がよく分からないものや破壊的傾向が指摘される団体(カルト的な団体)の手によるものもあります。多くの人がそれらを使用することで、世間の信頼を獲得し、結果的に団体の被害者を増やすことに加担してしまう危険があります。
もし、著作権フリーのコンテンツを用いる際は、必ず作成者や背景団体についてきちんと調べ、問題ないか確認してから利用しましょう。
アーカイブの編集と非公開について
華陽教会では、礼拝や聖書研究祈祷会の配信は基本的に全体公開しています。そのため、ライブ配信後、アーカイブにも残す動画は、定められたルールに基づいて、聖書朗読や賛美歌の一部をカット編集しています。
もちろん、カット編集には多少手間がかかるので「メッセージ部分だけ配信する」「ライブ配信のみ行う」「ライブ配信後、一定期間を経たら限定公開か非公開にする」などの対応でもかまわないと思います。その方が配信のハードルも下がるでしょう。
しかし、それでもリアルタイムに礼拝全体を公開しているのは、「礼拝を配信する」のであれば、礼拝の中心である「神の言葉(聖書)」や感謝の応答である会衆賛美や告白を省略したくないからです。
また、リアルタイムで礼拝に参加できない人や、配信によってしか礼拝に触れる機会のない人もいます。「動画配信は、あくまで礼拝のサポートであって、礼拝そのものではない」と考える場合も「そのサポートによって、困難な状況でも礼拝ができるようにする工夫」は必要だと思うので、アーカイブもなるべく残すようにしています。
さらに、礼拝全体の雰囲気が見えることは、教会に行こうか迷っている人にとってもプラスに働きます。入ってみるまで分からない教会、出席するまで分からない礼拝より、どういう雰囲気で、どういう内容か見えるところの方が、圧倒的に親切でしょう。
特に、感染症が拡大している間、教会に行きたくても出席者が信徒のみに制限されていたり、配信が教会員に限定されている場合、教会に行ったことがない人は、ずっと礼拝に触れる機会がありません。みんなが集まれないときに「伝道する」ということを考える際、ここを放置したままでいることは、誠実な姿勢とは言えないと思います。
今後、感染症がおさまってからも、華陽教会では配信を続けていく予定ですが、ぜひ色んな教会が色んなやり方で(配信以外にも)、礼拝に参加しにくい人たちの手段や礼拝に触れる入り口を一緒に増やしていけたらいいなと思います。