ぼく牧師 〜聖書研究・礼拝メッセージ、ときどき雑談〜

*聖書の引用は特別記載がない限り、日本聖書協会『聖書 新共同訳』 1987,1988 から引用しています。

カルト脱会後のQ&A ⑴ 回復の過程

破壊的カルト 2022年11月29日

Moshe HaroshによるPixabayからの画像

破壊的カルトを脱会した後、よく質問されるような内容を整理しています。今後、追加したり、更新していく予定です。

 

私の居たところはカルトかどうか分かりますか?

破壊的カルトとは、

 

①霊感商法、霊視商法、募金詐欺などの「金銭的被害」
②性暴力、虐待、奉仕の強要、長時間の拘束などの「身体的被害」
③誹謗中傷、パワハラ、セクハラ、脅しなどの「精神的被害」
④交流する人を制限したり、家族を敵視させる「関係性の破壊」
⑤騒音、占拠、無許可の貼り紙など「公共の福祉や利益の侵害」

 

などをもたらす反社会的集団です。それらが組織的に行われ、隠蔽され、正体や目的を隠した活動が行われているのであれば、カルト団体である可能性が高いです。

 

JSCPRの『集団健康度チェック表』を使ってみると、自分のいた団体に、どの程度、破壊的要素があったのか、客観的に整理することができます。何が問題だったのか言語化できるようになると、自信と回復につながるので、ぜひ活用してみてください。

 

JSCPR集団健康度チェック目録

 

宗教と宗教カルトの違いは何ですか?

健全な宗教と宗教カルトの違いは、個人の人権を侵害し、公共の福祉を破壊するような行為が、組織的・継続的に行われているかどうかです。特に「正体や目的を隠した勧誘」や「信じない自由を保障しない」自己決定権の侵害は、宗教が宗教カルトになっていく境界線です。健全な宗教であれば、正体や目的を隠した勧誘、信仰の強制、虐待や不法行為は行いません。

 

カルトのマインド・コントロールとは何ですか?

マインド・コントロールとは、本人が他者から操作を受けていることに気づかずに、思考や行動をコントロールされてしまう様々なテクニックの総称です。本人は「自分の意志で他者(組織)のために行動している」と思い込まされますが、実際には様々なコントロールを受けています。


被害者は、自分が受けていた「情報コントロール」「行動コントロール」「思考コントロール」「感情コントロール」の仕組みについて理解し、現在もどのような影響下にあるか整理しなければ、脱会後も、他のカルトや個人の支配に巻き込まれやすくなります。


特に、自分で何かを決めること、自分で何かを選択することに恐怖を覚え、誰かの指示や許可を求めるように思考が固定化されている人は、種々のコントロールについて学び、自分で考える力を回復する必要があります。カルト被害相談窓口の「心の相談室 りんどう」など、カルト問題に理解のある臨床心理士や公認心理士、元脱会者、宗教者などが連携している機関を頼ってください。


支援者とつながることが困難な人は、同じくカルトの脱会者であるスティーブン・ハッサンが書いた『マインド・コントロールの恐怖』『マインド・コントロールからの救出』などを読んで、自分に何が起きたのか、どういう状態なのか、整理してみてください。

 

カルトの教えの特徴は何ですか?

カルト団体が教える内容は、1から10まで全てが間違っているわけではありません。辛いときに励ましや慰めを与え、希望を持たせ、視野を広げてくれる教えもあります。自分のいた団体で教えられたこと、気づかされたことを全て否定する必要はありません。

 

しかし、詐欺師が本当の話に嘘を織り交ぜて話すように、カルトも健全な教えに悪質な教えを織り交ぜて人々をコントロールします。たとえば、

 

「自分たちの目的のためなら嘘をついても許される」
「リーダーの言うことや教えの内容に疑問を抱いてはならない」
「自分たち以外は本当に正しいことを知らず、間違っている」
「自分たちを非難し、批判する人々は悪であるか、悪の操作を受けている」
「自分たち以外は救われない」
「自分たちから離れた仲間は酷い目に遭ったり地獄に落ちる」

 

といった内容です。これらは、あなたを救うための教えではなく、あなたをコントロールするために、あなたが頼れる人をカルトメンバーに限定し、あなたを身内や社会から孤立させ、あなたの居場所をカルト以外になくしていくための教えです。健全な宗教であれば、このような教えを安易に、乱暴に語りません。

 

カルトの教えの特徴は、二元論的で視野を狭くし、自由に取れる行動や選択を少なくし、自分の頭で考えることに自信をなくさせ、「悪いことが起きる」という恐怖心や「良い結果や成功を得られない」という切迫感を増幅させ、人を騙したり傷つけたりする行動にも従わせてしまうところです。

 

教えによって、心が軽くなったり、強くなれた部分もあれば、不安を煽られたり、恐怖に囚われた部分もあるでしょう。しかし、「良いことがあったから悪い部分は無視できる」わけではありません。むしろ、悪い教えでコントロールするために、良い教えでカモフラージュされているところもあります。

 

今後、自分が生きていく上で、「大切にして良い教え」と「放置してはならない教え」を整理しながら、カルト団体で得た経験を消化していきましょう。

 

カルトを脱会した人はどうなりますか?

脱会までのプロセスによりますが、長期間信じていたもの、積み重ねてきたものが崩れてしまうので、最初は何も手につかなかったり、誰も信頼できなかったり、不安定になります。この期間は、本人も周りも焦らずに、よく休むようにしてください。虚無感や無力感によって、何もできなくなる時間は、カルトにいる間、傷つき疲れてしまった心身を回復し、エネルギーを蓄えるために必要な期間です。
 

少し元気になってくると、今まで拠り所にしていたものがなくなって、何に従えばいいのか分からなくなっているので、他の宗教や自己啓発に触れ始める人もいます。しかし、脱会直後は、自分が受けていた種々のコントロールについて学び、現在もどのような影響を受けているか整理して、自分で考える力を回復するときです。

 

安易に、他の宗教や自己啓発を訪ねると、新たに支配される場所、依存する場所となりかねません。まずは、何に従えばいいのか探すのではなく、自分に何が起きたのか理解と整理を進めましょう。信じるべきものを探すのは、自分に何が起きたのか整理してからでも遅くはありません。
 

また、本人も周りも、社会復帰を焦らないでください。脱会者の多くは、罪悪感や自己責任論に支配されて、人に頼ることが困難です。健全な頼り方ができない状態で社会復帰をしてしまうと、問題を一人で抱え込んだり、かえって孤立してしまい、再び心身が壊れるまで頑張ってしまいます。

 

自立を急いで、情報商材やマルチ商法に絡め取られてしまう人もいるので、自分の限界を正しく認識し、適度な目標設定をできるようになるまで、焦って仕事を始めようとするのは控えましょう。骨折して手術した後、すぐにリハビリを始めたら回復しないように、脱会して帰ってきた後、すぐに社会復帰を始めるのは乱暴です。
 

脱会後の整理が進み、自分の状態を認識し、限界の理解と目標設定ができるようになれば、健全な日常を取り戻していくことができます。脱会したから、罰を受けて、調子が悪くなるのではありません。心身に染み付いたコントロールから脱する過程で、自分の限界を知って、休むようになるために、調子が悪くなります。
 

医療機関や社会福祉機関など、信頼できる機関を頼りながら、回復プロセスを踏んでいけば、カルトで経験したことやカルトに居たことで分かったことも、無駄にはなりません。脱会して、友達や仲間ができた人、恋人や家族ができた人、趣味や楽しみができた人、新たな目標ができた人もたくさんいます。
 

一人暮らしを始めたり、旅行へ行ったり、漫画や小説を書くようになった人もいます。ジャーナリスト、教師、弁護士、臨床心理士をしている人にも、様々な脱会者がいます。脱会したら、酷い目に遭ったり、地獄に落ちたりするわけではありません。組織から守ってくれる支援者もいます。仲間もいます。ぜひ、希望を持ってください。

 

脱会後の回復にはどれくらいかかりますか?

その人の生育歴やカルトでの経験、脱会までのプロセス、病気や障害の有無、周りの理解度によって様々です。短い人は3ヶ月〜半年くらいで日常を取り戻しますし、長い人は10年前後かかります。ただし、その期間、ずっと同じ状態が続くわけではありません。


社会復帰に至らなくても、人と話せるようになったり、人と話せなくても、本や漫画が読めるようになったり、家から出られなくても、身の回りのことが自分でできるようになったり、変化は徐々に訪れます。何年も回復しないのではなく、回復の段階が複数あり、どの段階で時間を要するか、人によって違うと思ってください。
 

また、回復には波があります。途中まで、調子が良くなってきたと思ったら、再び、自信の喪失や恐怖に襲われることもあります。それは「後戻り」ではなく「回復の波が小さくなるまでのプロセス」です。波があることは、正常な現象です。回復が止まった、後退したのではなく、回復が進む過程なので、焦らず休息してください。

 

カルトの脱会者が相談できるところはありますか?

脱会前でも脱会後でも、以下のところで相談できます。「全国霊感商法対策弁護士連絡会」「統一教会被害者家族の会」「カルト被害相談窓口 心の相談室りんどう」「宗教2世ホットライン」「日本基督教団カルト問題連絡会

 

これらは、カルト問題に取り組む弁護士、臨床心理士、社会福祉士、元脱会者、研究者、宗教者などが連携している機関です。ネットやSNSでは、誰でも支援者やカウンセラーを自称できるので、ここに挙げたような複数の支援者と連携しているところを頼るようにしてください。